傷 と 絆 と キス の思い出

どうしようもないね。

変える気、ないでしょ?

 

 まだ、肌寒い日が続いていた、三月の半ばくらいだったと思う。

 

 「君はさ?いつだって自分は悪くないんだよね。だから反省しないよね。」

 

 ベランダで洗濯したばかりのバスタオルを勢いよくパンパンしながら、圭子は言った。語調が少し笑っているようだった。だからいつもの愚痴だろうと思って、笑いながら答えた。

 

 「そりゃそうさ。俺様はいつだって正しい。崇め奉りなさい。」

 

パンパン!と、まだ湿っているバスタオルが勢いよく鳴った。それから「はぁー」とため息が聞こえた。

 

 「やっぱさ、そうなんだよね。私たちってそこが似てて、だからなんだよね。」

 

  そう言うと彼女は、洗濯ものを干しおえたベランダから目の前にきて、座った。

 

 「あのさ、今日こそ話があるんだけど。いい?」

 

  「え?今?」

 

 「うん、今」

 

いつの間にか、彼女の言葉から笑い声が消えていた。これは、ついにか?と覚悟をきめながら座りなおす。彼女の背後には、青空に白いバスタオルが風を受けなびいているのが見えた。それがなんとなく、何かのメッセージに感じられた。

 

 

 時間にして、三時間くらいだったろうか。言いたいことが尽きず、時々席を立ちトイレに行ったり、喉が渇いたとキッチンへ行ったりしながら、それくらいの時が流れた。

 

 俺は終始うなづくだけと思いながら、それができないせいでこんなにも長くなった。だって、黙っていたら一方的なんだもん。

 

 「だからさ、そこおかしいでしょ?なんで自分ばっかり正しいってなっちゃうのよ!」

 

 「そうじゃないだろ!?俺ばっかり正しいって言ってねえべ!よく聴きとって言い返せよ!」

 

 ベランダのバスタオルは、もうはためくのをやめてしまっていた。

 

 「わかった。じゃあもういい。出てって。」

 

  はぁ?と思いながら、彼女の顔を見ると、いつになく真剣な表情が怒りでおかしなことになっていた。俺の方も似たような感じだったのかもしれない。気がつけば彼女のマンションを飛び出し、不動産屋に飛び込んでアパートを契約して、また彼女のマンションに戻っていた。帰ると彼女はベッドに寝ていた。

 

 「じゃあ、出て行くから。着替えとか持ってくね。」

 

 「うん。元気でね。」

 

 布団に頭までもぐりながら、少し泣いているような声で彼女はそう言った。俺はタンスから着替えをバッグに詰め、洗面所で歯ブラシをつかむと部屋を出た。

 

 借りたばかりの部屋に着くと、不動産屋が中の説明をはじめた。説明を聞きながら、彼女とはじめて交わしたキスを思い出していた。そうして不動産屋が帰ったあとで、泣きたいだけ泣いた。けれど、そんな涙はまだにわか雨程度でしかないと、気がつくのはまだ先の話。変わらなきゃと思うまで、けれどそんなに長くはかからなかった。

 

 

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